本書『上に立つ者の心得』(致知出版社刊)は学閥からすれば傍流の二人の学者の対談である。谷沢永一関西大学名誉教授と渡部昇一上智大学名誉教授。だが、その博学ぶりは抜きに出ていると言ってよい。その二人が中国は唐の時代の名著『貞観政要』をめっぐて対談する。本書の帯にはこうある。「『貞観政要』を読まなかった織田信長や豊臣秀吉の政権は短命に終わり、読んだ徳川家康や北条政子の政権は繁栄を築いた!」
これだけ読むと戦略論の本かと錯覚する。しかし、どうやら「帝王学」に近いらしい。「善を出せば栄え、悪を出せば滅びる」とは太宗の言葉である。ええっ、徳川家康や北条政子は善の行為をしたとは僕の浅薄な歴史的知識からは考えられないのである。
それはともかく、上に立つ者としての心得はどうあるべきかという指標には十分なる『貞観政要』の入門書である。それにしても、最近はこの手の倫理的な書籍が多く出版されているようである。公認会計士の勝間和代やSBIの北尾社長までも類似書を出版している。古くはカーネギーやナポレオンヒル。最近では『7つの習慣』のスティーブン・R・コヴィー等々。不安な時代を象徴しているかのようである。
本書の中でも「帝王の業、草創と守文と孰れが難き」の一文。創業後の守成をいかに成し遂げるかを最大のテーマとしている。企業の寿命は十年といわれる昨今。考えるべき課題である。
ただ、本書での難点を言えば、渡部氏の歴史観が余りにも国粋主義的である点である。失言で退任した中山大臣と同系列。侵略を正当化するのも此処までくるとKYかとも思うのである。
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